楽天がアマゾンに破れた理由。楽天にとってお客様は神様ではない!?
2022/06/05
日本最大のECサイト「楽天市場」を運営する楽天ですが、その株価があまり上昇しない原因にはアマゾンの存在があります。楽天も金融や通信など幅広い分野のサービスを打ち出していますが、次々と新しいサービスを打ち出すアマゾンに比べると消極的な印象を受けます。そのような印象は投資家の中でも共有され、株価があまり伸びない状態となっているのです。
楽天はSPUで利益縮小
楽天の収益構造は、楽天市場で出店する出店者から毎月徴収する出店料です。これが基本的な収入源となり、追加で出店者の売り上げに応じた手数料収入もあります。
楽天で出店する小売店は、基本的に売り上げが2倍になれば経費も2倍になってしまいます。しかし、楽天はECサイトのシステムを提供しているだけなので、店舗の売り上げが2倍になっても、経費はほとんど変わらず、利益率は大きく上昇するはずです。
しかし、現実は、楽天の利益率はむしろ下がっています。その原因は「楽天スーパーポイントアッププログラム(SPU)」です。楽天市場ではもともと1%のポイントが付く制度があり、ポイントをもらった客はそのポイントを使おうと、再度楽天市場で購入しようとするので客の囲い込みにつながります。
その1%のポイント還元に加え、楽天カード利用でさらにポイント還元したり、期間限定のポイントアップキャンペーンを実施したりしていましたが、SPUはこれをさらに拡充させたもので、楽天市場のアプリ経由で注文したり、楽天モバイルに加入すれば、最大8倍のポイントが付くキャンペーンをしていました。
楽天はこのキャンペーンに莫大な資金を投じており、これが利益を押し下げているのです。楽天のこのような行動は、出店者のEC事業を伸ばすための販促活動にコストをかけているとみることができますが、逆に言えば、EC事業での売り上げを確保するため消耗戦を行っているともいえるのです。
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“客”を大事にするアマゾンと“店“を大事にする楽天
楽天とアマゾンはどちらも通販ビジネスですが、その構造は全く異なります。楽天の顧客は出店者であり、アマゾンの顧客は購入者なのです。
楽天は出店者から出店料をもらっているため、極端な場合、出店者が満足すれば購入者が満足いかないサービスでも打ち出してしまう場合があります。購入者と楽天の間で感覚が合わない可能性があり、時には購入者よりも出店者の都合が優先されるケースもあるのです。ECビジネスは購入者あってのものですから、これは楽天の大きなデメリットと言えます。
一方で、アマゾンは“世界で一番購入者を大事にする企業”と謳っているだけあり、極端ともいえる顧客至上主義が貫かれています。アマゾンの通販ビジネスの利益の半分はアマゾン本体が運営する商品で賄われているので購入者を大事にするのは当たり前ですが、残りの利益の半分を占める個人出店者のマーケットプレイスでも顧客至上主義は貫かれています。
マーケットプレイスは、ショッピングモールのようなもので、ネット上のアマゾンの敷地を借りて通販をさせてもらう代わりに、毎月場所代や売り上げにかかる手数料をアマゾンに支払うのです。
マーケットプレイスは楽天市場の出店者と同じと言えますが、アマゾンでは客が店に対して悪い評価ができることと、客と店がトラブルになった時に、アマゾンが介入して解決を図るマーケットプレイス保証があることで、かなり客に有利な制度になっています。
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アマゾンの客は少しでも店の対応に不満があれば、店に対して悪い評価をすることができ、その悪い評価は1年間消えることはありません。アマゾンで買い物する客は、客からの評価で計算される顧客満足度のパーセンテージや、過去の評価の内容を見てから購入する決断をする傾向が強いので、1つの悪い評価が売り上げに大きく影響します。
悪い評価がされた時は、アマゾンに評価の削除を依頼できますが、現在は機械的に削除するかどうかの判断がされており、1秒も経たずに“削除できません”の文字が表示されます。例えば、お届け予定日内に商品は到着しており、それは追跡番号からでも証明できる場合でも、機械的に“削除できません”の文字が表示され、再度評価削除の依頼メールを送っても、「アマゾンは購入者の主観を大事にするため原則評価の削除はしません」というテンプレの返事が返ってきます。どんなに購入者が間違っていても、購入者の主観を大事にするという名目で評価は削除されないのです。
また、商品の価格によっては、追跡番号の無いゆうメールで発送することもありますが、客の中には、商品が届いているのに、追跡番号がないことに付け込み、商品が届かないと嘘をつく客もいます。
これは完全に詐欺ですが、店が返金を断っても、客がマーケットプレイス保証を申請すると、ほぼ瞬間的に出品者のお金から全額返金されてしまいます。これも機械的に行っていると考えられ、取り込み詐欺をする客にとっては恰好のシステムとなっています。客の中には店への嫌がらせで、大量に注文してすべて返品するという者もいますが、アマゾンでは注文から30日以内は、どんな場合でも絶対に返品を受け付けなければいけないというルールがあるため返品を受け付けなければいけず、仮にそれに逆らって返品拒否しても、マーケットプレイス保証を申請され、全額返金させられたうえ、アマゾンは客に対して商品は返品しなくても構わないと言ってしまうので、商品さえ戻ってこないというケースも起こりえます。
悪い評価とマーケットプレイス保証があることで、店は客の言いなりにならなければいけない恐怖政治の世界なのです。
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客を最優先しなかった楽天の凋落
話がアマゾンに偏ってしまいましたが、なぜ楽天は直接購入者とやり取りしないビジネスモデルを採用したのでしょうか?
大きな理由は成長スピードを速めるためです。直接購入者とやり取りしないビジネスモデルは、商品の選定や仕入れ、決済、配送などの業務を楽天で請け負わなければいけません。しかし、ショッピングモール形式なら、それらの業務は小売店に任せられるので、楽天は通販サイトの構築のみに注力できるので、成長が早いと見込んだのです。
確かに、楽天はその戦略を取ったことで、国内で急成長しました。しかし、今では、直接購入者とやり取りするビジネスモデルを選んだアマゾンに追い抜かれ、成長も鈍化しています。
アマゾンは高度なAI技術を用いて、売り上げを最大化する施策をたくさん取っています。例えば、アマゾンで買い物をしていると、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という風におすすめ商品が表示され、ついで買いを誘ってきますが、それもアマゾンの高度なAIが、大量の客の購入履歴から最適な関連商品を選んでお勧めしているのです。また、アマゾンでは客ごとに表示される商品の価格が違うというのも有名で、客ごとに利益を最大化しようとしているのです。
一方で、楽天でも関連商品は表示されますが、机を買ったら、関連商品として別の机を勧められたというネタのような本当の話があります。
楽天の生き残る道としては、高度なAI技術を持つ会社と連携してアマゾンをライバルとして挑戦するか、もしくは中高年は慣れ親しんだサービスを使い続ける傾向があるので、国内の中高年相手にサービスを提供し続け、新規の客には見切りを付け、既存の客のみを相手にし、長期にわたってそこそこの売り上げを確保していくかの2択を迫られることでしょう。