アマゾンで注文する前に届く商品、空飛ぶ倉庫。ネットから実店舗へ拡大の意図とは?
2022/06/05
全米の52%がアマゾンプライムに加入しており、富裕層では固定電話加入率よりアマゾンプライム加入率の方が多い。消費者の4人に1人が、実店舗での買い物前に、アマゾンのカスタマーレビューを参考にしている。
アマゾンになる前の名前
1994年にジェフベゾスがシアトルでアマゾンを開業した時、実はもう1つ名前の候補があったが、こちらはあまり知られていない。それは、relentless.comで情け容赦ないと言う意味だ。今ではこちらの名前の方がアマゾンをよく体現しているかもしれない。まあ、Amazonの下にAからzまで伸びている矢印マークがあるが、これはアルファベットで「AからZまでこの世の全ての商品を扱う」と言う意味であるので、どちらの名前でも同じかもしれないが笑
小売業はアメリカ経済全体としては成長していないので、アマゾンが成長している分、他の小売店が衰退しているという事である。では、どこが衰退してるかと言えば、アマゾン以外の全ての小売店である。アマゾンの業績は、同じジャンルを取り扱う企業の業績と反比例する。他の全ての小売店から客を奪うのだ。
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ゼロ・クリック・オーダーへの途上
アマゾンエコーはただのオモチャではない。子育てに苦労している母親が、少しの休息を取りたくて、アマゾンエコーに子供の相手をさせ、自分は仮眠をとるということがある。なぜなぜ期の子供は、永遠に「それはなぜ?」と言って大人を疲れさせるが、アマゾンエコーは疲れることなく永遠に答えてくれるのだ。
しかし、ジェフベゾスが狙っているのは、このような用途ではない。現在アマゾンエコーに向かって「卵が足りないわ」と言うと、自動で卵を注文してくれるが、ゆくゆくはそのセリフを言う手間もなく、主人の卵の消費速度を予測して、あらかじめ注文してくれるようになる。しかも、それは卵に限らず、あらゆる商品で行われるのだ。
アマゾンエコーは、喋りかければかけるほど、主人の趣味嗜好を学んで賢くなる。主人の注文を先回りして予測し、頼んでもいない商品が突然自宅に届くのだ。しかし、主人は「ちょうど良かった!」と感激し、アマゾンに感謝する。主人の趣味が以前とちょっと変わっていれば、同封された返品用の梱包材で着払いで送り返せばいいだけだ。次回からは、それを踏まえてさらに精度の高い商品が送られてくる。
前時代的な、ショッピングモールに寄って、駐車場を探し、目当てのものがないと分かり、別の店に行ってようやくゲットするも、レジの長い列に並ばねばならず、ようやく買えて家に帰るころにはくたくたになっているような、そんな経験はしなくていいのである。
付け加えて言えば、アマゾンエコーではアマゾンのプライベートブランド以外の電池をお勧めしない。あらかじめ、アマゾンが一番儲かる商品だけに限定して主人に提案して購入させるのだ。アマゾンエコーで選択肢として候補に挙がるのはせいぜい数種類であり、それらはアマゾンに利益を多くもたらすものばかりが選ばれている。
そのような商品ばかりを学習していき、さらには自動配送するゼロ・クリック・オーダーによって、顧客単価は飛躍的に上がるだろう。
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魅力的なストーリーテリング
株主はアマゾンに対して寛容である。アマゾンは創業以来一度も株主に配当を渡していないのに、株主は文句の1つも言わない。それは、アマゾンが配当を出す代わりに、それを開発研究費や設備投資費に回して、素晴らしいサービスを開発し、売り上げを上げ株価を上昇させると約束しているからだ。
このような魅力的なストーリーテリングを株主は信じ、実際アマゾンの株価は上昇の一途を辿っているので、株主はますますアマゾンの株を買い、アマゾンは様々なビジネスで業界を席巻していく。
時に荒唐無稽と思われるビジョンでも、ジェフベゾスならやってくれるに違いないと思わせてくれる力がある。近年、アマゾンは空飛ぶ倉庫の特許を獲得した。倉庫を空に飛ばし、そこから自動制御のドローンを飛ばし、各家庭に配達するという物だ。
倉庫を飛ばすという突飛な考えだが、高額な場所代が不要になることや、最適な地域へ飛んで行けることを考えると合理性はある。倉庫はプロペラを付けて巨大ドローンのように飛ばすのではなく、飛行船に吊るす。飛行船なら気体の軽さで浮いているだけなので、地上で場所を借りるよりも安く上がるだろう。
高さ1万メートル上空からドローンが飛び出して自由落下し、途中でプロペラが回りだし、目的地まで飛んで行く。例えば、スポーツ観戦のスタジアム上空に飛行船をつければ、多くの観客に効率的に商品を運ぶことができる。商品を運び終わったドローンは、自力では1万メートル上空まで飛んで行けないので、シャトルに格納され、打ち上げられて飛行船へと帰っていく。
このような壮大なストーリーに株主は魅了される。この計画がうまくいけば、アマゾンは特大ホームランを打つことができるだろう。ちまちまとヒットを稼ぐのではなく、空振り覚悟でホームランを狙に行くのがアマゾンのスタイルだ。
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実店舗を欲しがるアマゾン
意外に思われるかもしれないが、アマゾンは現在実店舗を多く出店しようとしている。ネット通販で隆盛を極め、多くのライバルの実店舗を潰してきたアマゾンが、なぜ実店舗に回帰するのだろうか。
1つは、実店舗を倉庫代わりにするためである。アマゾンは、460店舗を持つスーパーマーケットのホールフーズを買収したが、スーパーというのは住宅街にあることが多いため、そこを倉庫代わりにできれば、最速の配達ができるのだ。
アマゾンはこれまで配送時間の短縮に努めてきており、当日配送で世間を驚かせるにとどまらず、都市部なら数時間以内に配送するというサービスも打ち出している。実店舗を倉庫代わりにすることで、さらなる配送時間の短縮が可能になり、デリバリーピザのように欲しいときにすぐ届くという夢のようなサービスができるかもしれない。
2つ目は、消費者は商品を実際に手に取って吟味したがるという点である。いくら商品説明を細かくしたり、ARを使って商品の家具が客の部屋に合うかシミュレーションできるとしても、消費者は実際の質感や手触り・機能性を体験したいのである。実店舗があれば、店をショールームのようにして、その点を攻略できる。